日本人でグリーンカードを申請する人は多くいますが、米国市民権申請を希望する人は他国民に比べ比較的に少ないといえるでしょう。その理由の一つには、日本政府は二重国籍を認めていないことがあげられます。将来は日本に帰るオプションを維持しておきたいという声をよく聞きますが、しかしながら、様々な理由で米国籍取得を検討する場合があります。下記にその主な理由について説明します。
夫婦間の相続税:配偶者がなくなった場合、米国市民権保持者であれば夫婦間の遺産相続税は免税されますが、残された配偶者が米国市民権をもっていなければ多大な遺産相続税が課せられることがあります。これを回避するためには、一旦遺産を信託に預け、残された配偶者を生涯受益者として任命し、元本を次世代に相続して税金の支払いを先延ばしにするか、もしくは配偶者が永住権保持者であれば事前に米国市民権を申請・取得し、夫婦間の税金を免除してもらうことも検討できます。
親の呼寄せ:日本に親の面相を見る人がいなくなり、親を米国に呼びよせる必要がでてきた場合、親はビザ免除プログラムのESTAをつかって90日以内米国に滞在することができます。しかし、ESTAはアメリカ国内での滞在期間を延長することができません。B2観光ビザであれば、米国内で滞在期間の延長申請をすることはできますが、B2ビザで永遠にアメリカに滞在することはできません。ESTAもB2観光ビザも短期滞在者用の滞在資格なので、日本に戻る予定がないのであれば、永住権の申請を行わなければなりません。しかしながら、永住権保持者は親の永住権をスポンサーすることはできません。永住権保持者が米国市民権を取得すれば、米国市民スポンサーとして親の永住権を申請することができるようになります。
親の看病:日本にいる親の看病のために長期日本に戻る必要がでてくる場合があります。しかし、永住権保持者が1年以上アメリカを離れていると、原則として永住権は失効してしまいます。また、1年間のうち半年以上米国を不在にしていても、米国に永住する意思がないと判断されれば、入国時にグリーンカードを没収されることがあります。米国不在中もグリーンカードを維持するには、事前に再入国手続きを行うことができます。この手帳は2年間有効で、この間は米国を離れていても米国の永住権を維持することができます。再入国手帳を延長することはできますが、米国不在期間が4年を超えると、米国に永住する意思を証明することが難しくなり、延長が難しくなります。その他の選択肢として、米国市民権を申請する方法があります。しかしながら、自らの意思で米国市民権を取得した場合、日本のパスポートの更新ができなくなります。その場合、日本への滞在ビザを申請して日本には外国人として入国することになります。ただ、米国市民権を申請するためには、永住権取得時から実質5年以上、米国市民との結婚により永住権を取得した場合は実質3年以上アメリカに滞在していることが条件となります。また、申請直前の5年間の半分(結婚による永住権であれば3年間の半分)は米国に滞在していなければなりません。したがって、2年半以上(結婚による永住権であれば、18ヶ月以上)米国を離れていれば、米国市民権申請の条件を満たさなくなるで、米国を離れる前にあらゆる選択肢を検討したほうがよいでしょう。
子供の留学・就職:永住権取得後に子供が日本に留学・就職を希望し米国を長期不在にする場合、不在中も永住権を維持するには、上記同様、米国を離れる前に再入国手続きを行わなければなりません。ただし、日本での留学や就職が4年を超えた場合、米国に永住する意思を証明することが難しくなり、再入国手帳の延長が難しくなります。従って、再入国手帳が有効な間に米国に戻るのか、或は5年以上日本に滞在するのであれば米国市民権を申請してアメリカ人として日本に留学・就労にいくかなど、米国を離れる前にあらゆる選択肢を検討したほうがよいでしょう。米国市民権をとった場合、日本に入国するためには、入国目的にあわせて日本の学生ビザや就労ビザを申請する必要がでてきます
執筆:大蔵昌枝弁護士, テイラー・イングリッシュ・ドゥマ法律事務所
* Copyright reserved. 著作権所有
二重国籍問題:上述のようなアメリカのビザ事情により、実際問題として、日本での就学や就労に興味のある子ほど、米国籍を選択しなければ日本に長期滞在できないという矛盾した状態におかれています。欧米諸国の多くは自国との二重国籍をみとめていますが、日本をはじめ多くのアジア諸国では自国との二重国籍を認めていません。日本国憲法第十一条では、自らの意思で外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失うとされています。従って、今の日本の国籍制度では、将来日米間の架け橋となる子供たちをみすみす外国籍選択に追い込んでいる傾向にあり、日本の少子化に拍車をかけているようにもみられます。日米の両カ国で育った子供にどちらかの一方の国籍の選択を義務化するのは、父親か母親の一方を選ぶように強制しているかのようで、少し酷であるように思われますが、日本政府が二重国籍を認めるには、兵役問題など様々な問題が残っているようです。
本ニュース記事に関する注意事項
(DISCLAIMER)
本雇用・労働・移民法ニュース記事は弁護士として法律上または専門的なアドバイスの提供を意図したものではなく、一般的情報の提供を目的とするものです。また、記載されている情報に関しては、できるだけ正確なものにする努力をしておりますが、正確さについての保証はできません。しかも、法律や政府の方針は頻繁に変更するものであるため、実際の法律問題の処理に当っては、必ず専門の弁護士もしくは専門家の意見を求めて下さい。テイラー・イングリッシュ・ドゥマ法律事務所および筆者はこの記事に含まれる情報を現実の問題に適用することによって生じる結果や損失に関して何ら責任も負うことは出来ませんのであらかじめご承知おき下さい。
Masae Okura
Partner at Taylor English Duma LLP
[email protected]
678.426.4641